勇者エビル







俺の名はエビル。
去年、お袋が発狂した。
俺に向かって
「エビル、お前は伝説の勇者として生きる宿命をもっているのよ」
なーんていいやがった。
イカれてるぜ。
なんだよ。伝説の勇者って。
てめえはドラクエのやりすぎなんじゃねえの?ってツッコミ入れようと思ったがよ。
目が真剣なんだよ。
どうもフザケてるわけじゃなさそうだった。

こんなラリった親のもとで暮らせるかってことで
俺は家出した。
オヤジはよそで女作ってトンズラしちまったし。
おまけにお袋までがこうだ。
だいたい俺が勇者なわけねえだろ。
オヤジはただの酔っ払い。
お袋は地味で目立たねえ田舎女だ。
俺にそんな勇者なんて大層な血が受け継がれてるとは到底考えられないしな。
そんじゃ何か?てめえらは勇者の親ってことだろ。
そんな立派な人間にゃ見えねえよな。
あーぁ、もうやってられねえ。

確かに今、魔王って呼ばれれる奴がいるけどな。
おっと、説明が足りなかったな。

俺の住んでる世界はな、魔法なんていうシロモノが存在する。
そんで街の外にはモンスターとよばれる魔物がウヨウヨいんだよ。
だから一般の市民はそういう危険な場所には近づかねえ。
なんせあいつらはろくに剣も使えねえ弱い連中だ。
ま、俺はモンスターごときを恐れる臆病じゃねえから平気だけどよ。

自慢じゃないが、俺はこの街じゃちょっとは知れた存在だ。
エグプラント(俺の住んでる町の名前だ)でこの俺を知らない悪党はいない。
俺も世間じゃ悪党なんて思われてるがな。

俺は気にくわねえ野郎がいれば徹底的にぶっ叩くし。もちろん遠慮なんてしねえ。
だってよ俺は俺の人生楽しみてえんだ。
それを邪魔する奴は誰だろうと容赦しするつもりはねえってことよ。

だが町のほとんどの連中は、世間体ばかり気にしてつまらねえ。
他人の顔色ばかりうかがってな。
ホント主体性がないっていうか。
他人に頼って生きてるんじゃねえよな。
だいたい人間なんてもんはたった一人でだって生きれるもんだ。
「人間は一人じゃ暮らせない」、「助け合いながら生きていこう」
なんていう奴もいるが。
じゃ、俺はなんだよ。誰にも頼らず生きてるぜ。
旅から旅をしてな。
新しい町に到着したら生活費を稼ぐために、泥棒、強盗、恐喝などで金を稼いでいる。
俺の場合は人に頼ってるんじゃなくて、利用してるんだ。

俺が旅をしてるのは、単に家がないからだが・・
別に将来に不安などあるわけがない。
俺ほどの才能と器量をもつ男が世の中で成功しないわけがないからな。
剣の腕だって相当なものだし。
頭の回転だって速い。
おまけにルックスだって自信がある。ま、美形ってことだな。

だが、よく理解できないことだが、あまり女にモテてねえってことだ。
ようするに世の中の女は見る目がないってことよ。
別に恋愛してえなんて思わないが、女ってよ、いると色々便利だしな。
女がいれば飯に困ることもねえし、夜の相手だってな。
そんで飽きれば売ればいいだけだ。
知ってるか?女って売れるんだぜ。
裏社会じゃ当たり前のように取引されているんだ。
かなりの高値で売れる。
もう相当の期間遊んで暮らせるってくらいよ。

俺は町によると必ず金の持ってそうな家から盗みに入る。
別にいいだろ?俺は金に困ってんだ。
金持ちが貧乏人の手助けするのは当然じゃねえか?
特に俺みたいな将来有望な若者ならなおさらだ。
そんで金目のものをいただいたらとんずら。
別に中に人がいたって構わねえ。
そんときは縛ってサルグツワすりゃいいだけの話だ。
俺は旅から旅をしてるからな。
多少派手にしたって特に問題はない。
だってよ、町で騒ぎ出したころには俺はもう次の町に行ってるんだから。

この日もいつものように強盗をしようと窓を叩き割って、金のもってそうな家に侵入した。
だが、この家はいつもと違ってた。
家の中には一人のフードを被った男が立っていた。
俺が来るのを前もって知っていたかのような、まるで待ち伏せていたような感じだ。

「誰だ、てめえは?」

俺は剣を抜き、少し腰を落した。つまりいつでも攻撃に移れるような体勢をとってるんだ。
どうもこの男は妙だ。

「やれやれ、いきなり人の家に入って来て誰だ・・・か?それは私のセリフじゃないのかな?」

もったいぶった口調で男は口を開いた。
フードの男は特に武器を持っている様子はない。俺との距離は約5メートル。
一瞬で間合いをなくし斬りかかれる距離だ。
もしこの男が魔法使いだったとしても、呪文を唱え終わる前に攻撃できる自信がある。

「ち・・!よくわからねえ野郎だな。おい、てめえ、金をもってこい」

俺はいつものように金を要求した。だが

「あいにくだが、私は君の欲しがる金などもってはいない。君がエビルか?」

「なんで俺の名前知ってるんだ?
さてはお前・・・俺のことが好きなのか?悪いな。俺はそういう趣味はねえ。」

「ふ・・・情報どおり、頭は悪そうだ」

なんだと?誰が頭が悪いって。
初対面の人間に対して失礼と思わねえのか?
ぜってー小学校のときの通知表で「協調性に欠けるところがあります」
なんて書かれてたくちだな。俺もだけど

「状況がわかってねえみてえだな。今俺がその気になればてめえなんぞ2秒でぶっ殺せんだぜ」

「ふふ・・試してみればいいだろう。どうせ無駄だがな。」

「ふん!あとで後悔すんなよ」

俺はそういうとフード男に向かって斬りかかった。
ビュっという剣の音。
そして確かな手ごたえ・・・はなかった。
確かに斬ったはずの男がそこにはいない。
バカな?

「どこを見ている?私ならここだ。」

フード男はまた5メートルほど離れた場所に立っていた。
なんだと?魔法でも使ったか・・・
いやそんな様子はなかった。
俺は魔法に詳しくないが、
魔法を使うときには呪文が必要とするくらいは知っている。
だが男が唱えた様子はない。

「よくわかんねえが、これならどうだ!?」

俺はふたたび踊りかかった。
だが、今度もまた同じように俺の剣は空を斬った。
そしてまた男は俺と距離を放ち立っていた。

「何度試しても無駄だ。私は人の悪意から生まれた存在。つまり実体など持たないのだよ」

「悪意だぁ?なんだそりゃ、つまりモンスターってことか?」

「いや私は魔物を総べる者。いや、魔王という方が分かりやすいかな?」

今世間を騒がしてる魔王がこいつだっていうのか?
確かに俺は金持ちそうな屋敷に侵入したけどよ。
魔王の城にしちゃちょっと貧相じゃねえか?

「そんじゃ何か?この家がてめえの城ってことか?」

「実体を持たぬ今の私に城など必要ない。だが・・これから必要となるがな。」

これから必要となる・・・・どういう意味だってんだ?
だがどうもこれ以上剣で攻撃しても意味がないみたいだ。
攻撃態勢はとりつつも、攻撃するのはやめた。

「今必要なのは器なのだよ。私を入れるな。」

「そうか。わかったぞ。お前、俺の体が欲しいのか?
うむむ・・俺ってジャニーズ系だし。魔王が欲しがるのも分かるが。
悪いな。この体はてめえにはあげられねえ」

「誰がジャニーズ系だ。全く自意識過剰もいいとこだ。それに私はお前の体なぞ望んではないぞ。」

誰が自意識過剰だ!なんて失礼な奴なんだ。
剣で斬ってやろうと思ったが無駄なのでやめた。
けどよ、気にかかるのが俺の体を望んでないってことは・・俺に何の用だ?
確かに俺のことを待ち構えてたよな?


「なんだ、違うのか?じゃあ俺に何の用だ?」

「単刀直入に言う。お前は私にとって邪魔な存在だ。ここで消えてもらう。」

「へ!面白れえ。俺は簡単にはやられねえぜ」

とは言ったものの、どうする?魔王には剣は通用しねえし・・
まてよ・・なんで魔王は俺の命狙うんだ?
やっぱ俺がジャニーズ系の美形だからか?そんなわけねえよな。

「おい。魔王なんで俺の命をねらう?」

「簡単なことだ。お前が伝説の勇者の血を引く者だからな。私にとってお前は脅威になりかねん。」

伝説の勇者?
そんじゃお袋は発狂なんてしてなかったってことか。
でもよーそんじゃ俺のオヤジかお袋も勇者の血を引いてるんだよな。
どうも信用がならねえな。
この魔王とか名乗る奴もただの頭がおかしい変人じゃねえのか?
手品師にはトリックで剣を飲んだりできる奴もいるっていうしよ。
俺の攻撃から逃れれたのも何かのトリックか?
うーむ。トリックで2度も避けれるとは思わねえが・・
どっちにしろ、こいつが魔王ってのは怪しいな。

「おい、てめえは本当に魔王か?どうもウソくせー」

「疑りぶかい奴だな。以前戦ったときの勇者は純粋で正直な正義感に燃える男だったが。。」

「純粋で正直・・正義感に燃えるだぁ?け!アホらしい。ようするにただのバカってことだろ?」

「いいや、それは違うぞ。世界人類のために命を賭けて戦った素晴らしい男だった。
私は今でも彼を尊敬している。」

「魔王が勇者に尊敬なんてしてるんじゃねえよ。」

どうもこいつはワケがわからねえ。
魔王っていや邪悪で極悪なイメージがあるんだが。
こいつはなんていうかな。真面目っぽい雰囲気がある。

「ふーーむ・・駄目だ・・お前をここで殺すことはできん。」

魔王はそう言うと、しばらく考え込んだ。
今のうちの俺は金目のものを物色した。

へっへっへ。なかなか高そうな瓶だな。
売れば金貨10枚くらいになりそうだ。
あとかた金目のものをバッグに入れたので、
ここから脱出しようと思っていたら。
さっきまで考え込んでいた魔王が口を開いた。

「うむ。そうだ。あやつに勇者として教育を頼むか。」
そう言うと、魔王は指を鳴らした。
するとポンという音とともに、すげえ美少女が登場しやがった。

「魔王さま。何の御用でしょうか?」
女はうやうやしく、尋ねる。

「ルユよ。お前に勇者の教育係りを頼みたいのだ。」

「え?勇者の教育係りですか?」

女は俺の方を一瞬見て、魔王に尋ねた。
その表情から想像するに信じられないと思ってるのだろう。
無理はない。俺って今まで女にはたいしてモテなかったが、顔は美形だもんな

「あの、勇者ってあの悪人面のチンピラですか?
どうみても勇者って顔してませんけど・・どちらかというと前科13犯の殺人犯にしか見えませんが・・」

「なんだてめえは!?人のことをチンピラだと。」

なんて女だ。それに誰が前科13犯の殺人犯だ!?

「ルユよ・・そのチンピラを勇者として正義感に燃え、
私が戦うに相応しい人間に育て上げてほしいのだ。」

おい、だから俺のことをチンピラって呼ぶなよ。

「はい。分かりました。魔王様。
この悪人面のごくつぶし男を立派な勇者になるように精一杯頑張らせてもらいます。」

だれが、ごくつぶし男だ・・

魔王はそういうとフッと姿を消した。
この広い屋敷には俺とこのくそ生意気な女しかいねえ。
なんか俺の教育係りとか言ってたな?
つまりこの女が俺のまわりをチョロチョロするって意味なのか?
おいおい、ふざけんなよ。


「さて、勇者さん初めまして。私はルユっていいます。
これから君の教育係りすることになったからよろしくね」

ルユという少女は、ニコニコしながら俺に挨拶した。

「あ?何勝手に決めてんだよ。俺は認めた覚えねえぞ。」

「魔王様が決めたんだもん。これも君が立派な勇者になるまでの間だから」

ルユと俺との妙な旅はここから始まるわけだが、
まったく俺は女は欲しいとはいったけどな。
こんな生意気な女はいらねえよ。
俺が欲しいのは従順で、俺のためならならなんでもするっていう女だ。
こんな女じゃねえ!








続く









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