勇者エビル10


真っ暗で、何も見えない、森の中で、俺はゴロリと横になっていた。
今まで泊まっていた旅館が火事になってしまったんだが、その中に俺達の旅費が全部入っていたバッグもいっしょに燃えてしまったのだ。おかげで、ここ2日間ほど、野宿をするはめになっちまった。
元々、その火事の原因は、俺なわけだが。
あれは今から、3日前、あの日は寒かったため、俺はいつものように、部屋で焚き火をしてたんだ。
燃やす薪がなかったから、部屋のカーテンを燃やしてな、暖かかったぜ。
たまたま、部屋が乾燥してたのか、特に火の回りが早くてよ、あっという間に俺の部屋は炎上だ。
酒を飲んで寝ていた俺だが、目が覚めたときにはもう辺りは、炎で囲まれていたもんだ。
そこを上手いこと抜け出した、さすがに勇者な俺なんだがな。
しっかし、室内の焚き火は暖かかったな。野外じゃ火を燃やしてても寒いもんよ。
うむむ・・・なんか寒いな。
そうか、焚き火が弱くなってるからか?めんどくせえが、薪を入れるか。
そう思って、起き上がろうとしたんだが、どうもおかしい。
なぜか起き上がることができねえんだ。体に力が入らずな。
そのくせ、妙に頭だけははっきりと、目覚めているという、不思議な・・ちょっとした恐怖すら覚えるこの感覚。
そうだ、この感覚はどこかで経験したことがあるような気がするぜ。
・・・・まだ俺がガキだったころにな。一度だけかかったという、金縛りに似てるんだ。
あのときは、目が開いたら、急に直っちまったけな。
なんだ。そうか、俺はまた金縛りにかかってるだけか。
と、安心しかけたんだが、「ヒタヒタ」と何かが、近づいてくる音が音が聞こえる。
きっちりと聞こえるんだが、知ってのとおり、俺は金縛りにかかっている最中だからな。幻聴ってやつにきまっている。
根性のねえ奴は、こんな場面で恐怖に怯えながら、「神様助けてください」なんて祈るのかもしれねえが、この俺様は違うぜ。
だいたい、金縛りなんてもんは、日頃のストレスなんかで起きるといわれているもんだと、科学的にも証明されてるらしいしな。
「・・・様・・」
ふいに、耳元で、人の声が聞こえた気がするんだが。こいつも幻聴って奴か。やれやれ。
俺も結構疲れてるのかもしれねえな。馬鹿な下僕どもを連れているからよ。
魔族でありながら、俺に惚れている(はずだと思う)ルユに、金持ちボンボンのパナン。この2人の下僕を連れて、勇者エビル率いるパーティーは魔王退治の旅に向かっている。
ところが、2人は今、この場にはいない。
ルユは、親戚の結婚式に出るとかで昨日からいねえし、パナンは 昼間にナンパした女の尻を追いかけてどっかいなくなっちまった。
おまけに俺は金縛りか・・
ところでな、いつになったら俺の体は自由になるんだよ。
「・・・ゆ・・しゃ様・」
あん?なんだよ。また幻聴が聞こえたぜ。
こんどは気のせいじゃねえな。
ふーむ。
これは、あれだな。多分、野生動物の声なんじゃねえの?
ワオーンってな。
まて!ワオーンっていや、野性の犬か、オオカミだろ?
そいつはまずいな。起きてる時なら相手じゃねえが、金縛り状態に攻撃されちゃ、いくら俺でもひとたまりもねえ。
くそ!俺の体動きやがれってんだ。
「・・・勇者様・・・」
あ?こんどはハッキリ聞こえたぜ。
勇者様だと!?
どこにいるんだよ。勇者とやらはな。だいたい、自分で勇者っていう奴の100人中99人が嘘つきで、残りの一人もただの勘違い野郎に決まってるだろ。
おーい。どこだよ。ホラ吹き野郎はよぉ。
って、待て!
勇者って俺のことじゃねえの!?

「そうよ。勇者エビル様。いい加減気付いてよ。さっきから何回言っても気付いてくれないんだもん」
その瞬間、俺の目がハッキリと開かれた、そして、同時に、目の前に、年齢は俺と同じくらいで、亜麻色の髪を腰まで伸ばした小柄な女がそこにいた。
体も細く、特にその女の腰は、ギュッと抱いただけで簡単に折れてしまいそうなくらいなんだが、どこか弱そうに感じさせないオーラーを放っていた。
女は、まるで偶然、街でアイドルでも発見したような興奮した口調で俺に話しかけてきた。
「初めまして。エビル様。私は、ユーナって言うの。よろしくね。」
「あ?それよりそれより、どうなってんだよ。俺の体は、目が覚めたってのに、金縛りが解けねえぞ?」
「それは当たり前よ。私が魔法かけてるんだもん。」
「なんだと?早くとけよ。」
「ううん。それはまだ出来ないの。あとね、これは金縛りじゃなくて、夢縛りの術っていうのよ」
「どっちでもいいから早く解け!」
「だって、その術を解いたら、エビル様とお話しできなくなっちゃうんだもん」

と、ユーナは下を向きながら、俺に言う。すねているのか?
なんでそんな魔法かけなければ俺と、話すことができないのかは分からねえが、よく見るとなかなかいい女だな。
俺は勇者だ。勇者として、いい女の悩みくらいは聞いてやりたいのだが、こう体の自由が動かないのも困るな。
なんとかして、この女に魔法を解いてもらうしかないか。

「なぁ。ユーナと言ったな。なんで俺が勇者だって知ってるんだよ。ひょっとしてお前、魔族なのか?」
「違うよ。正真正銘、人間の女の子だよ。エビル様が勇者なのは予知夢で分かってたの。」
「予知夢?」
「そう。夢でね、未来のことが予言できるんだ。」
「夢で予言・・・か。そんじゃ俺のこの先の未来も分かるのか?その予知夢ってやつでよ。」
「ええ、分かるわ。エビル様ね、死んじゃうの。魔王にやられちゃうんだ。」
「・・・・おいおい、それはねえだろ。だいたい、魔族は勇者を殺すことは出来ねえんだぞ。そんなことしてみろよ、神族と戦争じゃねえか」
「そうよ。それで神族と戦争になっちゃうわ。今の魔王はね、今までの魔王みたいに平和主義じゃないから、だから、人間も、神族も全部嫌いなの。」
「へっ!この俺様が簡単に殺されるかよ。」
「うん。エビル様は殺させないよ。私が守るから。あのね、その予知夢は、あくまで、私がエビル様に協力しなかったらの未来だから。」
「そんじゃ、お前が俺に協力すれば、その未来は変わるっていうのか?」
「そうよ。だって、私は前もって、未来を知ることが出来るんだから、だからいくらでも悪い未来は変えれるんだよ。」






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