勇者エビル4




「な、なんだこりゃ〜〜!?」

ここは宿屋の一室。
みすごらしい部屋の中で俺の叫びが響く。
別に寝ぼけてるわけではない。
俺の体が女になっているのだ。
あわてて鏡を見ると、そこには見たこともない美少女が写っていた。
おい・・俺って女だっけ?
そんなわけねえ。

そう思っていると、タイミングよくドアをノックする音が聞こえる。

「エビルさん。なんですか?こんな朝早くから大声で。」

声の主はルユであった。
俺はすぐにドアを開けた。

「・・・あ、ごめんなさい。部屋を間違えました。」

「いや、俺だ。エビルだ。朝起きたら女になってたんだ。なんとかしろ」

「エビルさん??変な冗談はやめてください。エビルさんはもっと濁った目をしてて、
こう、なんていうか見るからに危なそうな人ですよ。
いえ、なにより彼は男です。」

なんだと?誰が濁った目で危なそうだぁ!?
と文句を言いたいところだが、そんな場合ではない。
なんとかこいつに俺がエビルだって信じてもらわないと困るのだ。
鏡に映った女(つまり俺の今の姿だ。)は、とびっきりの美少女だ。
こんな女を口説きたいとは思うが・・・
いくらなんでも女になりてえなんて思わないしな。
なんとか元の姿に戻らねえと。
そのためには魔族であるルユの力が必要だ。


「おい信じろ。俺はエビルだ。なんだか分からんが女になってたんだ。お前等だって困るだろ!?
女が勇者なんてな。」

「んーー。私はエビルさん以外に勇者だとか言ってないし。本当にそうなんですかぁ?」

「嘘ついたって意味ねえだろ。とりあえず元に戻せよ」

「人間って男から女に変わったりするんですか?
マイケルジャクソンみたいに黒人から白人になるケースは聞いたことありますけど。
ねえ、40過ぎたオジサンがピーターパンってどう思います?ちょっと無理ありますよね」

「そんなこと知るか!!マイケルがホモ疑惑で訴えられようが、ピーターパンだと言い張ろうが関係ねえ!?
それよりだ。早く俺を男に戻せ。」

「元に戻りたいんですかぁ?なんで?今のエビルさんすっごい可愛いですよ。」

「だぁぁ〜〜!!んなふうに言われたって少しも嬉しくねえよ!」

「うーん。そんなに戻りたいなら、なんとかしてみますけど。。」


そういってルユはまた分厚い本を取り出して調べ始める。
あくびをしながら、のほほんとページをめくるルユの姿に殺意を抱きつつも、
俺は黙ってこいつの答えを待った。


「・・・・・えっとぉ・・・・あ・・・なるほど。分かりました。
エビルさんが女の子になったのはどうも昨日飲んだ魔続水の副作用ですね。」

「なるほど。そうか。原因が分かったところで元に戻せ!」

「安心してください。ちょっと時間が経つとすぐに元の姿に戻りますから。」

「なんだ。すぐに元に戻るんだな!?どれくらいだ?1時間くらいか?」

「いえ、もうちょっと。だいたい10年くらいって本に書いてあります」

「そんなに待てねえよ!なんとかしろよ。お前魔族だろ?」

「無理ですよ。このケースの副作用って複雑で私じゃなんとも出来ないですし。
多分魔王様ならなんとか出来ると思うけど」

「魔王って前に会った、フード被った男か?そんじゃ魔王のところに行こうぜ」

「魔王様のところへ?・・エビルさん・・・やっと勇者として魔王様と戦う覚悟をしてくれたんですね」

「してねえよ。ただ元の姿にしてもらうだけだ。」


はぁ・・けっこうこいつの相手をしていると疲れる。
げんなりしている俺とは対照的に、ルユはニコニコとしてやがる。
俺がこんなに不幸だというの・・・


「おい、ルユ、てめえ何ニヤついてんだよ!」

「あ、ごめんなさい。ただ、美少女と魔王様の戦いって絵になるなぁーって思ったらつい。
今まで勇者って男の人だったし。」

「俺は女じゃねえ。男だ!それに魔王と戦うなんて言ってねえだろ」

「でも元に戻るために会うんでしょ?きっと魔王様、問答無用で攻撃してきますよ。」

「うーむ・・男に戻るためには魔王と戦わねえといけねえのか?」

「ね。魔王様と戦いましょうよ♪そうだ。私魔王様の弱点知ってますよ」

「なんか府にオチねえが・・・・ところで魔王の弱点ってなんだ?」

「実は魔王様ってピーマンが嫌いなんですよ。」

「アホかてめーは!?そんなこと知ったって意味ねえだろ?」


こいつ俺のことからかってるのか?それともただの天然か?
どちらにしても元に戻るためにはどうやら魔王と戦うしかないらしいが・・
本当にそうなのか?人間が飲んだら普通死んでしまうような水の副作用だ。
確かにルユが言うように複雑なのかもしれねえ。
だが、元からこんな副作用なんて存在しねえで、ただ俺を魔王にけしかけたいだけの
ただの嘘かもしれないのだ。
本当にこの女のいうとおりにすればいいのかどうか分からない。
ふーむ。。ここはこいつの言うことを聞くフリをしておこう。


「よし分かったぜ。魔王を倒すことにしよう。」

「はい♪それまでいっしょにがんばりましょうね。」


ルユは嬉しそうに笑う。
その笑顔はなんと表現していいか分からないが、
ほとんどの男はまず骨抜きになってしまう・・・
そんな綺麗な笑顔だ。
そんな笑顔を俺に向けた・・・
もしかして、いや間違いないだろう。
ルユは俺のことが好きなのか?
そうかー。
だが、こいつって魔族だしなー。
いや、別に魔族だからって・・・いいじゃねえか。
魔族が俺の女だったら・・・
結構便利だよな。悪いことしても魔法でなんとかしてくれるしよー
ルユの場合、退屈だから魔王退治なんて俺に強制させてるんだろ?
だったら俺があいつの彼氏にでもなれば退屈じゃなくなるわけだから。
くだらねえ魔王退治なんてする必要もなくなるわけだ。
ちょっと天然でマイペースなところがあいつの欠点であるが・・
このさい贅沢はいってられねえ。
今のうちに口説くか?
だがどうやって?いきなり付き合ってくれというのはちと無理な気もする。
とりあえず何かプレゼントでもするか。
だが・・・何がいいかな。
花でいいか。女は花が好きと聞いたことあるし。


「ちょっとまってろ。」


俺はそういうとすぐに部屋を出た。
そして宿屋の庭の花壇に咲いていた花をいくつか引っこ抜いた。
よし。あとはこれを束にしてと・・・
これでプレゼントは完璧だ。
俺はドアを開けまた宿屋に入り、ルユがいる部屋を目指した。
階段の後ろから、「花壇が荒らされてるー?」
という間抜けな悲鳴が聞こえるが、俺には関係ない。
だいたいそんなところに花を植えておく方が悪いのだ。


「よう。待たせたな。」


俺は花をルユに渡した。


「え?この花、私にですか?」

「そうだ。どうだ?感動したか?」

「は、はぁ・・・でもなんで?」

「いいかよく聞けよ。ギブアンドテイクって言葉知ってるか?」

「まぁ、聞いたことはありますけど・・」

「俺はお前に花をくれてやった。だからお前もそれに見合ったものを俺によこせ」

「え??でも何を渡したらいいのか・・」

「俺はな、今欲しいものがある。それをよこせ」

「欲しいもの・・・なんですか?」

「お前だ。俺の女になれ!」

「え・・・えぇ〜〜〜〜!?」

「その、エビルさん私のことが好きなんですか??」

「好きかどうかはわからねえ。魔族が女だったら便利そうだしな」


それから3日間ルユは口を聞いてくれなかった。
なぜだ?俺は何か間違ったことを言ったのだろうか?
正直俺は恋愛経験が少ない。
だから変なことを言ったかもしれんが・・・
むむむ・・・
女心というのは難しいな。
って、俺もいま女なんだよな。










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