勇者エビル5




「ねえねえ。彼女達〜どこ行くの〜?
これからボクといっしょに素敵な時間を過ごさないかい?」

俺とルユが宿を出て少し歩いていると、一人の男に俺達は声をかけられた。
見た目は美形と言ってもいいかもしれないが、
こいつを包む雰囲気は軽薄そうな、遊んでいそうな――そんなイメージを持たせる。

エビル「なんだてめえは?あっち行け。シッシ!」
俺は野良犬でも追い払うような態度で対応する。
いや野良犬の方がまだ可愛げがあるけどな。


ナンパ男「い、いやぁ、レディーがそんな言葉使いをするもんじゃないよ」
ナンパ男Aはこめかみに青筋を立てながらも冷静を装っている。
名前分からねえからナンパ男Aでいいだろ?

エビル「俺は男にナンパされる覚えはねェ!」

ナンパ男「???」

エビル「俺は男に興味はねえって言ってんだよ!」

ナンパ男「え?男にって・・・・・君もしかしてレズなの?」

エビル「なワケねェだろ!?いいか俺は男だ。分かったらさっさと失せろ!」

ナンパ男「・・・・!?君、男なの? 
いや、どうみても女の子だけど・・うーん。近頃のオカマってすごいんだね・・」

エビル「誰がオカマだ!俺は正真正銘男だ。どっからどうみたって男だろ!?」

ナンパ男「・・・どっからどうみても女だけど」

ルユ「エビルさん。今は女の子になってること忘れたんですか?ほら魔続水飲んで・・」

むむ・・そうだ。今俺って女になってるんだった。
くそ忘れてた・・・そうか。どうりで野郎どもの視線が熱いと思ったぜ。


エビル「すまん。今は俺、女だ。」

ナンパ男「なんかよく分からないけど、これからお茶でもどう?」


ナンパ男はめげずに言い寄ってくる。
あーしつけえな。
すぐに殴り倒してやろうか・・・
いや、ちょうど腹がすいてきたしな。
昼飯でもおごらせるか。
そんで飯だけ食ったらサヨナラだ。


エビル「で、お茶だけなのぉ〜?あたしお腹減ってるんだけどぉ」
俺は女の口調で答えた。あ〜〜気持ち悪い・・

ナンパ男「え?もちろんこれからランチなんてどうかな。エヘエヘ」

なにがエヘエヘだ!
局部を思いっきり蹴ってやりたい衝動に襲われたが我慢した。

エビル「もちろん奢りだよな?」

ナンパ男「もちろんだよ。さあランチへ行こう。これから行こう。すぐ行こう!」


急にテンションが上がったナンパ男Aはまくしたてるように、レストランへ案内しだした。


パナン「ところで君たちなんて名前なの?ボクはパナンって言うんだけど」

ルユ「あ、私ルユっていいます。そんでこの人はエビルさん」

パナン「へ〜。ルユちゃんとエビルちゃんかぁ。いい名前だね」


ナンパ男Aは俺達の機嫌をとるように言葉を続ける。
もっとも俺は何も聞いちゃいねえけどな。
そういや、さっきこの男、名前名乗らなかったか?
別にいいか。覚えなくてもな。


ルユ「君たちを見たときにはびっくりしたよ。まるで美の女神ヴィーナスが舞い降りたかと思ってね。」

ルユ「え〜?そんなお世辞言っても何もでませんよぉ〜」

パナン「いや、ルユちゃん。ボクは嘘なんて生まれてきて一度もついたことはないよ。
ボクは君たちみたいなかわいい子と同じ時間を共有できて幸せ者さ」


キザな野郎だな・・恥ずかしげもなくこんなセリフよく言えるもんだ。
とは言っても、女を口説くときの参考になりそうではある。
ふむふむ・・女は多少キザな方が口説きやすいと。。
さりげなく心に刻む俺・・・


パナン「君たちは運命を信じるかい?」

ルユ「へ?運命ですかぁ〜?」

「そう、運命さ。ボクがこうして君たちと出会ったのもきっと神様が導いてくれた運命なんじゃないか・・・
そんなふうに思えてきてね。確かにボクたちが出会ったのは偶然だとは思うんだけど。
こんな偶然が積み重なり、人は助け合って生きてるから・・。
だから・・出来ればその偶然大事にしたいな」

ルユ「神様ですかぁ・・・」


そうつぶやくとルユは少し複雑な表情をした。
こいつの場合、魔族だからな。
神と仲が悪いんだろう。


パナン「君は神様を信じてないの?ボクは信じたいな。いや今までは神様なんて信じてなかったけど。そのワケは・・」

エビル「なぁ、今向かってるレストラン何料理なんだ?」

パナン「そのワケは君たちという可憐な・・・・あ、ゴホン。レストランだね。ボクのとっておきの場所さ
君たちのような素敵なレディー達にふさわしい最高のワイン、最高の食事も用意できるしね」


口説きトークに入ってきたので、話題を変える俺。
するとこの男は簡単にその話題を変えた。
ルユが突然「犬と猫どっちが好きですかぁ?」なんてワケわかんねえ質問しても
「ボクは両方好きだけど、どちらかというと犬かな。賢くて忠実なところが好きなんだよ」
なんて対応していやがる。
つまりだ。なんというか居心地がいいというか・・・
俺達の興味のもつ話をあいつはする。
そして歩く速度も早すぎず遅すぎず、あくまで俺達に合わせた歩調だ。
なるほどな。
こいつは相当女の扱いに慣れてやがる。
面白い。
ならばナンパ男よ。
このエビルさまがてめえの口説きテクニックを習ってあげようではないか!
そして俺はこれからモテモテ道をまっしぐらだぜ。

いい女「ああ・・エビルさん。もう私ドキドキしてるの・・」
エビル「ウヒョヒョヒョ。そうかそうか。ドキドキしてる胸はここか?」
いい女「だ・め!さわっちゃ。」
エビル「ウーヒョヒョヒョ。いいではないか。そちの胸は大きいのう。ヒョヒョヒョ」
いい女「もうエッチ・・・でもエビルさんになったら・・」

グハハハ〜〜!
これだぜ。勇者はモテて当然だ。
毎日毎日違う女を口説いて・・・
う〜ん。なんて素敵な日々だ。勇者ばんざーい
うははははははははははははははっははははは!!!

「・・・・エビルさん・・どうしたんですか?」

ルユがじと目で俺を見つめていた。
てっ、てめえ、人が妄想してるのを見てるんじゃねえよ。
いややっぱ勝手に妄想しだした俺が悪いのか?
恥ずかしいぜ・・・
モテモテ道がどうのより、まずは男に戻ることの方が先決だな。
冷静になった俺は自分が女であることを思い出した。




ナンパ男Aの案内したレストランは、文句のつけようがない所だった。
値段はそれ以上に高そうだったが。
俺が今まで生きてきて、こんな高そうな店には入ったことなど一度もねえ。
この男結構金持ちなのかぁ?
レストランの中に入ると、俺はもっと驚いた。
すぐ近くに座って食事しているオバサンは「オホホホ、このワインは美味しいザマス!」
などといかにも上流階級の人間が話していそうな口調だ。
いかにもな口調だったからな。
てめえはスネオのママかよ?とツッコミたくなったもんだが。


「さあ、レディー達。好きなのを頼んでよ。」

席に着くと男はニコニコしながら尋ねる。
俺は迷うことなく一番高いコースを注文した。
にも関わらず男はニコニコと余裕をかましていやがる。
ううむ。やはりこの男金持ちだな。

「お飲み物は何にいたしましょうか?」
蝶ネクタイをしたソムリエがワインを持ちながら登場した。
俺はまたも一番高いやつを注文する。
しばらくして食事と酒が俺達のテーブルに運ばれてきた。


料理も酒も最高といっていいものだった。
俺は夢中で食べた。どれも食べたこともない味ばかりだ。
しっかし、女を口説こうと思ったらここまでしねえといけないのか?
だってよぉ。。ここまでしてぜったいに口説けるかどうか保障ねえんだろ?
「ここまで金を払ったんだから俺の女になれ」
とか俺だったら言うところだが、
この男はそういう素振りを見せない。
ただニコニコとしている。
なるほど、これが「男の余裕」ってやつなのか!?
女にモテルにはキザなセリフ、男の余裕・・・この二つがどうやら大切らしい。
かぁ〜〜めんどくせー!
やめだやめ!
こんなめんどうな口説き方なんぞ俺には合わねえ。
男は男らしくストレートなのが一番だと俺は思うんだがどうよ?

いい機会だ。このエビル様が口説き方を教えてやろうか?
いきなり睡眠薬なんかで意識飛ばしちまうんだよ。
こうすりゃ絶対に成功するだろ?
簡単簡単。これこそ俺向きだぜ〜
いやこれってもう犯罪か?
強盗しまくってる俺には関係ねえか。
人のモンは俺のモン、俺のモンも俺のモン。
つまりいい女はぜ〜んぶ俺のモンだぁ〜〜

・・・・俺っていつもこんな発想だから女にモテねえのか?




ピピピ〜〜ピピ〜〜!
俺が考えごとをしていると、妙な音が響き渡った。
すぐにルユが携帯電話を取り出し、帰る支度を始めた。

「ごめんなさい。エビルさん。魔王様に呼ばれちゃって。ちょっと出かけますね」

「おう。行けよ。ただし俺が全部食っちまうからな。グハハ!」



かぁ〜〜うめえぜ。
今は女の口説き方がどうのこうのよりも、
目の前にある飯のほうが重要だ。
なんせこんな高級な料理めったに食べる機会はねえだろうし。


「エビルちゃん。ワインのお代わりどう?」

ナンパ男Aはワインを勧めてきた。
なかなか気がきくじゃねえか。
俺はそのワインをグイッと喉に流し込んだ。
うむ、このでけえ海老もなかなか。。
おや?変だな、ちょっと目がかすんできやがったぜ。
ゴシゴシと目をこすってはみるものの効果はない。
それどころか頭がボーっとしてくる始末。
寝不足か?
いや昨日はきっちり10時間睡眠をとってるし・・
やばい。目を空けてられねえ・・・
どうなってんだ・・・・か、体が・・・お・・・重・・い・・
意識を失いそうな時、
俺はナンパ男Aのにやつく顔を見た・・

パナン「おやすみエビルちゃん」

エビル「く・・・くそ・・・この野郎・・・眠り薬を盛り・・やがった・・な・・・」
なんて卑怯な野郎だ・・・
女を口説くのに眠り薬だと?男の風上にもおけねえ。。って俺が言えた義理じゃねえな・・
そんなことより・・・俺の操はどうなる!?

男は・・・男は・・・男は嫌だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!










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