勇者エビル9



ゴォオオオ・・・・・・と派手な音を立てて、俺達が泊まっていた宿屋が燃えている。
魔王から頂いた金で毎日ドンチャン騒ぎをしていたのだが、数時間前、火事が発生したことにより、今は宿屋の外に出ている。
酔っていた俺は、全財産の入っていた鞄を部屋に忘れて、避難しちまった。
おかげで一文無しってわけだ。バカヤロー。
これじゃ、今までみてえな酒池肉林な生活ができねえじゃねえか。
け!まぁいい。俺には魔王っていう、金ツルがいるからな、また金を用意してもらえばいいだけだ。
と思っていると、隣にいたルユが、
「エビルさん。全財産がなくなって、これからの魔王様打倒の旅は、大変になりますね。」
「何が大変だよ?また魔王の馬鹿から金を用意してもらえばいいだけじゃねえか」
「いえ、無理ですよ。私、言いませんでした?魔王様が代わったって。」
「代わった?どういう意味だよ」
「つまりですね、以前、エビルさんがお会いした、魔王様ですけど、リストラされちゃったんです。それでつい先日、新しい魔王様が決まったのですよ。」

魔王が代わった?
つまり、俺に金を用意した、マヌケな魔王はもういねえってことか。それよりも魔王って、リストラとかされるものなのかよ!?

「おいおい、リストラってなんだよ。」
「前の魔王様は、魔界国民の支持率が悪かったんですよ。でも今はたっぷりの退職金をもらって、魔界博物館の館長してるらしいですよ。で、問題なのは、今の魔王様なんですけど、ちょっと右よりの人なんです。」
「右より?」
「つまり右翼ってことです。魔界を愛するがゆえに、神族とも本気で戦争を起こそうと考えてるから・・エビルさんにとっては大変ですよ」

確か前に、勇者に負けることを条件に、魔族は50年に1回、人間界への侵攻が、神族から黙認されてると聞いたな。
逆にいえば、勇者がいない限りは、魔族どもも侵略行為が許されていないわけだから、前の魔王は、俺に勇者になってくれと泣きついてきたわけだが。
つまりだ、それだけ、魔族どもは神族と戦うことを避けているわけともいえる。
神族を恐れていなければ、勇者など殺して、神族と戦争を起こすに決まっているからな。
ところが、新しく魔王に就任した男(かどうかまだ分からないが)は、神族と一戦交えようと考える危ない野郎だ。
そんな男がいちいち、勇者を殺さないようにと気を使ってくるだろうか?いや、そんなおとなしい相手じゃねえだろう。
むしろ、一番最初に俺を殺すように働きかけてくるんじゃねえか・・・。
いやまて、そう考えるのは単純すぎる。
なぜ前の魔王が神族と戦うのを避けていたのか?
それは、神族の方が、魔族よりも強力な力を持っていたからじゃないだろうか・・。
そう考えればまだ安心ができるかもしれねえが、本当に神族と戦争を始めようとするなら、まず宣戦布告の意味を込めて、勇者である俺様を殺そうとするかもしれねえ。
そう考えると、今目の前にいる、ルユも安心は出来ねえな。
こいつだって、魔族だ。
俺を殺せという命令があれば、後ろから切りつけられることだって十分に考えられる。
それならば、今のうちに、斬りつけてしまうか?
悪くないアイディアだな。もしも魔族が今までどおり、俺を必要としているヘタレ連中であっても、ルユを殺してしまったところで何も出来ねえだろう。だってよ、俺は勇者だ。俺様がいなければ、楽しみにしていた人間界侵攻は中止だからよ。
それにもしも、ルユが俺を狙う殺し屋だとしても、殺られる前に殺っておけば、危険を回避することができる。
ふっふっふ。悪く思うなよ。2人っきりになったらお前をぶっ殺してやる。
俺がひそかに殺意を心に抱いていたのに気付きもせず、ルユは、
「あ、エビルさん。服のボタン取れかけてますよ。・・えっと、私、針と糸持ってるから、つけてあげますね♪」
と無邪気な笑顔で俺のボタンをつけはじめた。

そういえば、ルユと出会ってからもう1ヶ月になる。
17になるこの年齢まで俺はまだ、初恋すらしていないのだが、一度だけこのルユには、彼女になってくれと告白をしたことがあったな。(エビル第四話参照)
恋愛感情などもっていなかったから、愛の全くこもっていない告白は、ルユを怒らせてしまった。
ふ・・・懐かしいぜ。といっても1ヵ月前のことだがな。
ルユ・・・・
そうだったな。お前は、俺に・・・
失恋という屈辱を与えた憎い女だったな!
くそ、思い出したら腹が立ってきたぜ。
もうあの女を殺すことに迷いはねえ。

猛然と腹を立てている俺とは逆に、パナンは、にやけた顔で女をナンパしていやがる。
ついでだ、この馬鹿も殺しておこうと俺は密かに決意した。






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