勇者エビル2




まったく調子が狂う。
今まで一人で気ままな旅をしてきた俺だが。。
ルユとかいう生意気な女とパーティーを組むようになってからというもの、ろくなことがない。
見た目は美少女といってもいいんだが、
口うるさい。
俺は自由が好きなんだ。誰の指図も受けたくねえ。
け!なんで俺がこんな女といっしょにいねえといけねえんだ。

「つまり、人間として愛こそがもっとも大切であり、どんなに強くても愛を知らなければ
それはとてもむなしいものといえます。なぜなら、人はお互い助け合って生きて・・」
ルユの声が聞こえる。
いつものように俺に説教してやがるんだ。
俺はこいつといっしょに旅をしてから、ハードなスケジュールをこなしている。
勇者になるためには、教養と常識、良識が必要というのがこの女の持論だ。
自慢じゃねえが、俺は小学校だってろくに出ちゃいない。
だからそういう勉強などは大嫌いだ。
かといって別に頭が悪いワケじゃねえ。
頭の回転は早いしな。
別に勉強できるからといって頭いいとは限らねえだろ?
いらぬおせっかいとはこのことだ。
おまけにこいつは俺の教師きどりときている。

「あのー、人の話聞いてますかぁ?。」
「んなつまんねー話し聞いてるわけねえだろ!?」
「つまらないって、誰のために一生懸命教えてると思ってるんですかぁ?。」
「だから、誰のためだよ?少なくとも俺は頼んでねえぞ!」

いつものように俺が不満を言い、ルユが説教をする。
つまんねえ。。
と、いいながら俺はこのつまらねえ授業を受けなければならねえ。
とりあえず、出席すれば飯を食べさせてくれるからな。
こいつの作る飯はなかなかのものだ。
そのへんの食堂なんかじゃ味わえないくらい料理は美味い。
だからこそ、俺もおとなしく、こいつの指図を聞いてるんだけどな。

俺が今日何十回目かのあくびをしたとき、

「さ、とりあえず勇者としての心構えの時間はこれで終わりますね。」
「やっと終わったか。そんじゃ飯にしよーぜ」
「いえ、その前に質問があります。エビルさんにとって一番大切なモノってなんですか?」
「一番大切なモノか。金だな」
「違います。さっきまで何を聞いてたんです?
一番大切なのは人を信頼する心です」
「はぁ?てめえはアホか?金があれば信頼なんて買えんじゃねえか」
「いえ、それは違います。一時的な人の関心を集めることはできても、
お金で買った関係なんてもろいもの。
でも人と人の信頼でつちかった関係はとても強く大切な存在です。」
「俺は別に、もろくてもいいから、金の方がいいな。別に信頼する必要なんてねえじゃん」
「考えてください。宝くじで当たった特賞よりも、
地道に、貧しくとも正しく生きることのほうが遥かに意義があると思いませんか?」
「思わねえな。地道に生きたって事故で死んじまうかもしれねえだろ。」

くそ。また説教が続きやがる。
だいたい俺がどんな価値観をもってようと関係ねえだろ?
勝手にてめえの考えを押しつけんじゃねえってんだ。

「もしもですけど、足をくじいた人が森で困ってたらどうしますか?」
「そうだな。とりあえず有り金ぜんぶ頂くな。
女だったら拉致して外国にでも売るし、男なら臓器の売人のところへ連れてくのが一番だ」
「あなたって人は、どうやったらそういう発想が生まれるんですか?
いいですか?困ってる人がいたら助けなくちゃ。」
「そんじゃ何か?俺が腹が減って困ってたら、どこかの金持ちは飯でもご馳走してくれんのか?」
「当然そうあるべきだと思います。」
「だが、現実はそうじゃねえ。俺が飯をご馳走してくれといっても、イヤな顔して追い出されるのがオチだ」
「悲しいですが、現実はそうかもしれません。お腹をすかせ、倒れている人がいても、
知らぬ振りをする人が多いのも否定できないですし。。
特にエビルさんの場合は、見るからに危なそうだから関わりたくないって思われてるだろうし。」

なんだと?前から思ってたけど一言多いな。
それはともかく・・・こいつ、魔王の部下ってことは、人間じゃねえよな?
そもそもなんで俺が勇者の心得なんて魔族のこいつから習ってるんだ?

「おい。おめえって人間じゃねえんだろ?」
「私ですか?はい、魔族ですけど」
「だよな。けどなんで俺が魔族からこんなくだらねえ授業受けてんだよ」
「だから何度も言ってるように、あなたは勇者なんです。
私達が敬愛する魔王さまと唯一対等に戦える存在なんですよ。」
「俺は勇者じゃねえが・・まぁそれは置いといてだ。
その魔王のライバルである勇者を育ててどうすんだよ?
変じゃねえか。俺って言ってみれば魔族の敵なんだろ」
「いい質問ですね。そもそも勇者というのは神族の力を受け継いだ、特殊な人間のことです。
もう何千年も前から魔王様と勇者の戦いは行われてるんですよ。
いつも勝つのは勇者なんですけどね。魔王様も本気で勝とうなんて気はないんです。
魔界も最近は退屈でしてね。人間界への侵略は我々魔族の娯楽というか・・」


おい。ちょっと待て。娯楽ってなんだよ。
じゃあ俺は魔族の退屈しのぎのために戦うってことか?
ふざけんじゃねえっての。
いくら暇だからって、人間界に戦争しかけんなよ。
ガキと同じじゃねえか。
つまらないからって駄々こねるガキとな


「そんなわけで勇者であるエビルさんには頑張って我々魔族から人間界を守る使命があります。」
「あのなぁ。俺はてめえら魔族の娯楽のために戦えってか?」
「そんな言い方じゃ私達が戦闘ばかりする快楽殺人鬼みたいじゃないですか。
今の魔界はもうどうしようもないくらい娯楽が不足してるんです。」


なんて無茶苦茶な理屈だ。
俺だってたまに剣を抜いて戦うときはあるが、
戦うにはそれなりの理由がある。
強盗するとき、身を守るとき、気にいらねえ奴をぶちのめす時なんかだ。
だが、さすがに退屈だからって剣は抜かねえぞ。
なんて血の気が多いんだ。

「やる気がでねえな。俺以外の勇者を探してくれ。」
「困ります。あなたには我々魔族を楽しませるという大事な使命が・・・」
「俺は、お笑い芸人じゃねえ!」

「人間界侵略って50年に1回しか出来ないんです。今年はその記念すべき年でして・・
もう何千年も前から神族との約束で決められた我々魔族の一番の楽しみなイベントなんです。
私達はこの日をずーっと待ってたんですよ!
それなのにあなたが立派な勇者になってくれないと、他の魔族たちも困っちゃうんです。
ただ侵略をするだけなんてどう考えても酷いこういでしょ?」

いや、考えなくても十分に酷いと思うぞ。
それに何だよ。50年に1回の記念イベントって。
オリンピックやワールドカップのノリで侵略されたってな。
人として大事なものがいくつか、足りないんじゃねえか?
俺も人のことはいえねえけどよ。
いや、こいつの場合は人じゃなくて魔族だったけ。
そんな奴等から勇者としての心得なんて教えてもらいたくねえな。
だいたい愛がどうのとか、人を信じることがどうのとか言われても説得力ねえよ。











続く






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